蜜月まで何マイル?

    “再会の温度”
 

海へと漕ぎ出してから何年目か…には、
そういや結構ばらつきのある面々で。
年齢差もあるので、
年長組のロビンやフランキーは長くて当然、
ブルックは論外な組だから一緒にしちゃあややこしいし。
逆に、ルフィの勧誘を受けたことが切っ掛けで、
生まれ故郷から離れ、大きな海へと漕ぎ出したのが、
ウソップとチョッパーで。
あとの3人は、
一応それぞれに 10年そこそこのキャリアがあったような身と窺えるものの、

 「それにしちゃあ、ゾロのあの方向音痴っぷりってどうよ。」
 「だからこそ、
  なかなかグランドラインへ入れずにいたのかも知れないわね。」
 「同じところをぐるぐる回ってた?」
 「ひとり“サルガッソー”状態とか?」
 「ふ、不憫な奴…。」

  「うっせぇなっ、放っとけよっっ!!///////」←あ

ルフィ自身もそういやあ、
最初の仲間であるゾロと出会った折、
仲間を集めてる途中だと胸を張ったあの時でさえ、
計画性無さ過ぎの航海に、出て来たばっかという様子だったような。

 “まあ、あの海軍中将の爺ちゃんから、
  結構なスパルタ受けてたらしいから……。”

世間がどよもした実の父上からの影響は、
逢ったこともないくらいだ、全く受けてはないらしかったが。
それでも、泣く子も黙る伝説の海軍将校、
あのゴール・D・ロジャーと直接の鍔ぜり合いもしたガーブ中将が、
最強の海兵目指して鍛えたというからには、
半端なそれじゃあなかっただろうし。
すっとぼけた言動は変わらないままながら、
気がつきゃとんでもない海賊団を片っ端からからげて来た自分たちの、
さすがは、しんがり守るキャプテンを張れるだけのことはある実力、
既に蓄えてもいたわけで。

  それでも歯が立たなんだ、
  新世界への関門となってた島にて。

立ち向かう新天地で必要となろう、更なる力を身につけるため、
そしてルフィからの“二年後の再会”という約束へ向けて。
一味の全員が単独での修行へと散り散りとなって……



    ◇◇


それでなくとも“板子一枚下は地獄”なんて言いようをする海の、
一番深みであろう
“底”へと向かうしかないのが、新世界への最初の関門で。
船を覆う“コーティング”などという特殊な技術があるため、
航海そのものに理論上の不都合はないというが、
頭上になった海面には何とはなく奇妙な感慨が涌いた。
すこぶるつきの明るい快晴だったせいか、それとも、
出発したシャボンディはマングローブ島なため、
さすがの浄化力のおかげで周辺の海の透明度も高いのか。
海中は結構明るくて、見通しもよく。
波が揺れて出来る光の網目が高みに望めて、キラチカ眩しかったし。
それを遮るように横切る、イワシだかアジだかの群れが、
空にどよどよと沸き立った黒い積乱雲みたいで。
なのに素早く形を変え、どんどん移動してくのが何とも豪快で。

 「凄げぇなぁ。」

これ以上はない未知の世界への出発だけに、
かつては天空の海へも昇ったスキルがあるにもかかわらず、
トナカイドクターや雄々しくなった狙撃手さんが、
大丈夫なのかちゃんと地上へ戻れるのかと不安がっていたものの。
目の前に広がる神秘的な青の世界、
シャボンディ島の土台、ヤルキマンマングローブの巨きな根っこや
そこへ巣喰っていたり行き来する魚たちの多彩な姿などなどへ、
右じゃ左じゃ上だ下だと見ては驚くのに忙しくなり、
気がつきゃ先行きを案じる暇が無くなったようでもあって。

 そんなお仲間たちの中にあって、

 「綺麗ぇだなぁ〜。」

何とも感慨深げな声を上げたのが、
追っ手の海軍の強力な機械兵器だった“パシフィスタ”を、
拳の一撃だけで難なく伸した、我らが船長の麦ワラのルフィさん。
どういうお遊びなのやら、
単なる変装のためとは思えぬいで立ち、
縁取りへフリルの遊びがついた へそ出しシャツをひらめかせ、
無邪気に駆け回ってた彼だったのが、

 “………ああ、”

そういえば。
こいつは悪魔の実の能力者だから、
海へ浸かれば力が出なくなり、そのまま溺れてしまうのだったなと。
ついつい視線が追ってた存在の、
結構大きな特異点、
だっていうのに今更ながらに思い出す、
こちらも随分と大まかな性分が相変わらずな剣豪さんであり。
落っこちるたび意識が遠くなってしまう身だったから、
こんな風にのんびりと、
眺めるような余裕なんてなかったに違いなく。
それでのことだろう、一際の声を上げると、
うわぁ凄ぇなぁと、
喉元を反っくり返らせて頭上を見上げたそのまんま。
サウザンドサニー号の広い甲板を再び駆け出しかかった
小さな船長さんだったのだが。
その頭から色鮮やかな芝生の上へ、
ぱさりと落っこちたのが、
ルフィといえばのトレードマークでもある麦ワラ帽子。

 「………お。」

さすがに気がついたか、
開いた指の隙間から黒髪のぞかす、いかにも大雑把な所作で
わさりと頭を押さえつつ、
“おおう”と立ち止まった彼より先に、

 「…ほれ。」

膝も曲げずの、されど余裕で
誰かさんの長い腕が先んじており。
ずるずるした印象の長衣紋を
マントか外套みたいに羽織った彼の大きな手が、
そちらも ひょいと無造作に、
帽子を拾い上げる構図というかシルエットが、

 “………お。//////”

あれれぇと思った何かしらを伝えてのこと。
小さな船長さんの口許を、
うにむに・むににと たわまさせ。
ほらよと、
その延長という、付け足しかついでのような所作にて、
ぽすんとかぶせてもらったのへ、

 「うん…vv」

うにむにさせてた表情豊かなお口が、
にぃいっと真横へと伸びてのご機嫌な笑顔へ塗り変わる。
久々に顔を合わせた場所が、
それぞれに結構な数がいた
海軍と海賊たちの睨み合いという
ちょっとした修羅場だったその上。
自分たちの出航を阻止せんという動きを突き放しての
相も変わらず、どたばたした中での再会だったので。
そういや落ち着いて互いを見ちゃあいなかったけれど。

 「何だよな。」
 「ああ?」

えいっと腕が伸びて来て、
小さな拳が起き上がりたての懐ろへ ぽことんと当たる。
何だよなという言いようは、
どこか言い掛かりっぽい喧嘩腰ともとれて。
それでのこと、隻眼の剣豪さんも ついつい
何がだと言いたげな応じ方で返したもんの。
喧嘩なら買うぞという意にしては、
精悍なお顔の中、
口許を軽く“への字”に曲げただけなあたりが、

 「相変わらずよねぇ。」
 「そだな。」

2年経ってもアレだものと、
周囲が先に察したか、苦笑しつつ呆れたほどだったりし。

 「で?」
 「んん?」
 「だからよ。」

何が何なんだと、
訊いただけじゃあ何のことやらな言い回しで聞き返したゾロだったのへ、

 「だから、ちっとも変わってねぇってか。」

腰に差した大太刀の柄へ腕を引っかけている立ち姿といい、
さっきの帽子を拾い上げた仕草の輪郭だって、
以前とちっとも変わってはなくてと。
それを見つけて…ありゃりゃあと、
何でかな、口許がむずむずしたんだと。
むんと胸を張っての主張する船長さんじゃああったけど、

 「でもな、これはいただけねぇからな。」

そぉれと上へ挙げられた右の腕。
延ばして来た手が何をか指し示すべく人差し指だけを立てており、
それがぴとりと当たったのは、
やはりやはりの左目のまぶたで。

 「戦う男なんだ、
  怪我だの傷だの作んのはしょうがねえけどよ。
  選りにもよって、急所やられてどーすんだ。」

それに、確か剣士の恥とか言ってなかったか?と、
よくも覚えていやがったと、残った側の目許を眇めた剣豪さんだが、
そのまま何か言いかかったのを遮って、

 「他んトコは変わってなかったから いっけどよvv」

にししと微笑ったルフィがとっとと回れ右をしたもんだから、

 「あ、こら。」

何だそれ、自分だけ言ったもん勝ちかよと、
大股で追う剣豪なのもまた、久々に見る光景で。
喧嘩が喧嘩に見えぬのも、
そのくせ、肩をすくめて知ったことかと捨て置かず。
話の続きはと追うところまでもが相変わらずだと、
本人たちより周囲の方がお見通し。

  変わってねぇって何の話だ。
  だから、帽子をポンした、手の大きいトコとかが だよ。
  〜〜〜〜なんだそりゃ。//////

落っことすたび“しょうがねぇなぁ”と、
面倒臭そうに言いつつ、
それでも必ず拾い上げちゃあ定位置へと戻してくれて。
随分と擦り切れた帽子越し、
かぶせてくれた力加減も、手のひらの大きさも、
それからそれから頼もしい温もりも
ありゃりゃあ、変わってないじゃんかって。

  それに気がついた途端、ワケもなく嬉しかった。

全然変わってなかった頼もしい手が、
ふんわり温かだった力加減が。
また逢えたってこと、の
またってところ ぐんと濃くしたみたいでサ…と。
ああやっぱり うまく言えない、
これじゃあ“何だそりゃ”って言われようから。

  言ってなんかやらないんだもんと。

海の深みにある、魚人と人魚の住まう島。
見たことのない世界を目指してぐんぐんと、
潜行してゆく船と裏腹、気持ちはわくわくな一味の大将、
別なことでも もっともっと
その気分は弾んでおいでのようで。


  途轍もない苦衷にも負けず、
  また一緒だよと集まった仲間のみんな。
  ああ、また一緒に行けるんだねと、
  お顔よりも声よりも、
  温ったかい手からそれを拾って
  それが何より嬉しかっただなんて。
  鈍感なゾロなんかには
  やっぱり言ってやんないよvv





   〜Fine〜  2012.04.20.

  *カウンター 400、000hit リクエスト
   ヨウ様 『ルフィの髪(頭)を撫でるゾロと、
        ゾロに撫でられるのが好きなルフィ』


  *気がつかぬ間にもの凄い数字になっていましたね。
   こんなにもお越しいただいていて、ありがとうございます。

   そしてそして、今時こんなネタですいません。
   当方、WJ未読な上に
   関西地方は
   アニワンも3週間くらいズレまくっておりますため、
   原作派の方には
   “どこまで溯っているんだ”という
   片腹痛さでございましょうが、そういう事情です、すいません。
   そういうのを置いといても、
   何でこうも、すぐにばらっばらに離れる彼らなのか…。
   せめて、短いながらも一緒にいましたという
   紛れもないひとときを使わせていただきました。


  *…と思っていたら、新しく上陸した次の島では
   一味が分断されたところまでは同じながら、
   今回はルフィとゾロが一緒のグループなんですってね。
   うあー珍し〜〜い。(おいおい)
   最強とナンバー2が一緒だなんて、
   それでドラマを組み上げるのはなかなか大変でしょうに。
   それとも、こっちもまたまた散らばるのかなぁ。
   何しろ 鉄砲弾船長と迷子の王様…。
   (エニエスロビー到着直後〜司法の塔 参照・大笑)
   ロビンさんも単独行動お任せの頼もしいお人だし、
   ウソップはそんなお姉様が
   何となれば ゾロへトッピングしてくれそうな気配だし。
   (参照;アニメオリジナル、ナバロン要塞篇)
   あうう〜〜、相変わらず本誌も気になるですよぉvvv

ご感想はこちらまでvv めーるふぉーむvv

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